2015年1月12日月曜日

映画『鑑定士と顔のない依頼人』 ・・・老人鑑定士が謎の女に翻弄されます

●原題:The Best Offer(La migliore offerta)
●ジャンル:犯罪/ドラマ/ミステリー/ロマンス
●上映時間:131min
●製作年:2013年
●製作国:イタリア
●言語:英語
●カラー:カラー
◆監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
◆出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・ストラゲス、シルビア・ホークス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン、デルモット・クロウリー、キルナ・スタメル、リナ・ケベド、その他大勢

  皆様、3連休はいかがお過ごしでしょうか?成人の日ですね。自分にはまったく関係ないですけど(笑)。さて、今回はある2作品を立て続けに紹介したいと思います。一気に観た結果、両作ともちょっと気になってしまいましたので。

【ストーリー】
  イタリア。鑑定士バージルはオークションを進行する傍ら、友人ビリーと共謀してお気に入りの絵画を収集する男。独身を貫き孤高の人生を送る変わり者でもあった。ある日、一人の女から売却したい装飾品の鑑定の依頼を受けるバージル。屋敷に住むその女クレアはある理由から、バージルとは電話や壁越しでの会話のみで顔を合わせることがなかった。女性を知らないバージルは、そんな手を焼くクレアに徐々に好意を寄せるようになり・・・。

【感想と雑談】
  『鑑定士〜』は予告編で気になってはいたものの、なんだか重たそうな雰囲気でしたので、似たテーマで何か気が晴れそうな『モネ・ゲーム』('12)もセットで借りることにしました(笑)。『モネ〜』は次回に書くことにします。

 老人鑑定士バージルが豪華なレストランで一人食事をするところが笑えます。別にギャグではないのですが、かなり特異な人物として描かれています。まあ金持ちではあるので、レストラン側も大事な客として彼の誕生日にはケーキをプレゼントする訳です。しかし、バージルは誕生日が1日早いのを理由にケーキには手を付けず、ローソクの火が消えるまで微動だにしないスーパー変わり者。レストラン側も何とかしろよ。

 そんなバージルが、ある屋敷に呼ばれて数々の装飾品の鑑定をすることになります。ここからぐいと話に引き込まれることになります。屋敷では謎の女クレアから壁越しにあれやこれや依頼をされ、また浮き沈みの激しい彼女の性格もあってバージルは翻弄されてしまいます。でも、同時にこれまで殆ど女性を知らなかったバージルは、こんな出会いであっても彼女に強く惹かれることになります。いい感じだと思います。

 しかし、予告編からも期待できた壁の向こうにいる女性はいったい何者で、顔を合わせない理由とは何なのか、という最大のミステリー要素が意外に早くわかってしまうのは残念でした。話はまた別の道を進んでいくことになります。

 これまでバージルが収集してきた絵画はどれもが女性の肖像画ばかり。それらが壁一面に飾られた部屋に一人座るバージルが、今でいう二次元嫁に満足してきたとすれば、ここで俺にも春がきたぜ三次元嫁、という転機が後半に訪れることになるのです。鑑定士のお仕事そのものの要素はさほどなかったですが、バージルが贋作にも個性があるのだと擁護するような発言をするところは印象的でした。



 一方で、度々バージルが屋敷で拾う何かの部品がちょっと謎めいていて、技術屋と共にそれを組み上げながら完成形を推理していくことろはミステリーじみていてよかったです。この部品と姿を見せないクレアの関係とは。え、ひょっとして?なんて色々と想像するのも楽しいのですが、これも中途半端な結果となっていたのは残念でした。ちょっと『ヒューゴの不思議な発明』('11)を思い出しましたが。

 バージルがある意味、絶頂期に入った辺りで、衝撃の展開を迎えます。これを食らうバージル同様に観る人もホントに頭のなか真っ白になるくらい。えー、マジかー。走馬灯のように、これまでの展開が頭の中を巡ります。そういうことだったのか。バージルに感情移入してしまうほど、この展開はキツイものだと思います。人間てやつはここまでできるものか。

 ジュゼッペ・トルナトーレ監督の作品は『ニュー・シネマ・パラダイス』、『海の上のピアニスト』、『マレーネ』くらいしか観ていませんが、どれも業の深さを風情豊かに落ち着いて描いていたと思います。本作も同様に格調の高さも伺える丁寧な作りで見応えはありました。ある男の波乱の人生と取れば面白かったといえるかな。あのラストの余韻はなんともでしたが。

 鑑定士バージルを演じるはジェフリー・ラッシュ。いぶし銀の変わり者でクレアに共感していく男を遺憾なく発揮していました。また、ちょい役ながら友人ビリーを演じるドナルド・サザーランドもなかなかの存在感。この人黙っていてもドナルド・サザーランドですよね(笑)。

 イタリア作品だからか、裸体も遠慮無く描いていた感もあります。ある人物がガウンだけの姿である仕草をするのですが、ご開帳して見えてた気がします。さりげないのでちょっと経ってから気付いてビックリしました。が、エロスというより芸術だと思うので、これ読んで急いでレンタル屋に走ったりしないよう注意して欲しいです。


 鑑定士になったら気を付けたい事項。


(C)2012 Pasco Cinematografica srl.
【出典】『鑑定士と顔のない依頼人』/Happinet

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映画『モネ・ゲーム』 ・・・英国男と米国女の贋作大作戦です

●原題:Gambit
●ジャンル:コメディ/犯罪
●上映時間:89min
●製作年:2012年
●製作国:アメリカ
●言語:英語
●カラー:カラー
◆監督:マイケル・ホフマン
◆出演:コリン・ファース、キャメロン・ディアス、アラン・リックマン、スタンリー・トゥッチ、トム・コートネイ、伊川 東吾、その他大勢

 上記の『鑑定士と顔のない依頼人』('13)から立て続けに観た犯罪コメディ作品になります。

【ストーリー】
  イギリス。キュレーターのハリーは仕事の依頼主であるメディア王シャバンダーのことが気に食わなかった。絵画に目のないシャバンダーに一泡吹かせようとハリーは一大作戦を決行。アメリカはテキサス娘PJをモネ作品の所有者に見立て、贋作をシャバンダーに買わせようとするが・・・。

【感想と雑談】
 『鑑定士〜』の次に観て正解でした。逆順に観てたら立ち直れなかったかも、ってそれは大袈裟。こちらは、なかなか軽快な内容で、爆笑とまではいきませんがニヤリとできる楽しい作品でした。しかし、ポスターのヒマワリ顔キャメロン・ディアスはどうにかならんか(笑)。コリン・ファースの対照的な顔付きと並んでるところは、英国と米国の性質を表してますよね。

 舞台は英国がメインで登場人物も英国人が多いですね。冒頭から主人公でキュレーターのハリーと相棒のネルソン少佐の英国訛りの英語が炸裂します。まずは米国テキサスでカウガールPJをスカウトするところ妄想が激しくて思わず笑ってしまいました。我に返ると大変厳しい現実が待っていますが。

 キュレーターというのは一見、鑑定士に見えますが、正式には鑑定士にプラスして収集した資料の専門知識を有し業務を管理監督する専門職を指すそうです。まあ、そんな細かなこと理解してなくても単なる鑑定士のイメージで追っても問題無しです。相棒に描かせたモネの作品『積み藁』の贋作をPJと共にシャバンダーにいかにして売りつけるかが肝となっています。英国風ウィットに富んでいてマンガちっくな作りですね。

 知らなかったのですが、黒縁メガネのコリン・ファースになんとなく昔のマイケル・ケインを連想したところ、これ実はリメイク作品だそうで、オリジナル作品『泥棒貴族』('66)のハリーはまさにマイケル・ケインが演じていたのだとか。どことなく、古きよき犯罪コメディの雰囲気が漂ってる訳です。

 おしとやかな英国人とは対象的に、フランクな米国人のPJを演じるキャメロン・ディアスは、ホントに典型的な米国人ですよね。以前、英国と米国を比較するような『ホリデー』('06)でも米国代表をやってたもんな。しかし、本作でのカウガールしながらの登場シーンは、あれどう見ても男だろ(笑)。代役に女スタントマンでも使えばいいのに。



 悪役のシャバンダーを演じるはアラン・リックマン。バカな体当たり役で新鮮でした。コメディも結構やってるのかな。英国紳士のイメージが吹き飛びました。いかすぜアラン。また、ハリーのライバルでキュレーターを演じるはスタンリー・トゥッチ。髭面だけとつぶらな瞳は隠せない好きな俳優さんです。あまり活躍の場がなかったのは残念。

 オリジナル作品にも登場したのか不明ですが、シャバンダーの取引先として日本企業が登場し、久々にエキセントリックな日本人を堪能できました。そんなヤツいねーよってやつ。しかし、本物の日本人を起用しているところは好感が持てました。仲間うちで話す日本語が流暢なんですよね。

 飛び抜けて注目するところはないのですが、犯罪コメディらしくクライマックスの贋作をめぐる騒動や、その後のオチは清々しくて気持ちのいいものでした。伏線と回収の妙もありますね。上映時間も90分を切る短さだし、なかなかのお手軽さでした。

 ところで、アラン・リックマンが素っ裸でふんぞり返るシーンがあるのですが、ここで股間を思いきりご開帳するのです。うまく隠してますけど。で、ご開帳シーンといえば、先の『鑑定士と顔のない依頼人』にもありました。ご開帳で繋がる2つの作品。配給もGAGA繋がりだし。これをセットで観られたのも不思議な巡りあわせですね。アホか。


 絵画っていいですよね。


(C)2012 GAMBIT PICTURES LIMITED
【出典】『モネ・ゲーム』/Happinet

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2015年1月3日土曜日

映画『her/世界でひとつの彼女』 ・・・超絶性能の女AIが男を天国に導きます

●原題:her
●ジャンル:ドラマ/ロマンス/SF
●上映時間:126min
●製作年:2013年
●製作国:アメリカ
●言語:英語
●カラー:カラー
◆監督:スパイク・ジョーンズ
◆出演:ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラ、エイミー・アダムス、マット・レッチャー、オリビア・ワイルド、クリス・プラット、スカーレット・ヨハンソン(声)、スパイク・ジョーンズ(声)、その他大勢

 新年あけましておめでとうございます。皆さん、どんな年越だったでしょうか?私はなんだかいつものように日が変わっただけという感じでした(笑)。本年もよろしくお願い致します。
 さて、今回は割と最近のSF作品を挙げてみたいと思います。

【ストーリー】
 近未来のどこか。セオドアは手紙の代筆会社に務める心優しい男。決別寸前の妻のことで心に穴が開いた状態であった。ある日のこと、新型OSを購入するセオドア。それは最新型AIを搭載したOSであった。インストールと初期設定を終えるとAIは主人となるセオドアに話しかける。サマンサと名乗るその声は聡明な女性そのものであった。賢くウィットに富んだサマンサにセオドアは感動し、やがて生活も楽しいものとなる。しかし、学習能力によって感情を持つようになったサマンサはある提案をしセオドアを混乱させてしまう・・・。



【感想と雑談】
 レンタル屋の新作コーナーで何やら目立つパッケージが。こんな作品あったのですね。手に取って裏面を見てみれば、そのストーリーにビビビとくるものがありました。さえない男とOS(オペレーティングシステム)機能の主従関係を超えた世界。学生時代に何かの少年誌で読んだ同様のSFマンガに感動した記憶が蘇りました。今年1発目の記事にしてしまいます。

 静かな作品ですね。インターフェース技術が発達した時代で、市民はコンピュータを直接の会話形式で操作し、イヤホン型のコミュニケーションツールとスマホっぽい端末を携帯しています。舞台となる都市部は様々な人種が行き交っていて捉えどころのない無国籍風の印象。またどことなく抽象的です。

 冒頭から、代筆業務をこなし、街を歩き、自宅で過ごすセオドアを静かに淡々と追っていきます。抽象的と書きましたが、結構ディティールがしっかりしているところもあります。コンピュータ画面のデザインが映画然してなく質素だし、空間にプレイ画面を映し出す3Dゲームは超技術ですが、なんだかしっくりした存在感。



 好きな時に音声指示でコンピュータをリモート操作できて、例えばベッドの中で手軽に世界中の人とチャットできるのはいいのですが、その反面、悲惨とまではいきませんが人との直の触れ合いがなくなっているのも確かに感じます。薄くて中性的に感じるこの設定は、今のご時世を暗に表してるようで、ちょっと寂しく悲しくもあります。

 セオドアが衝動買いするOS。それに搭載される女性型AIのサマンサが大問題です。この声をスカーレット・ヨハンソンが演じてるとか。もうね、彼女が演じてること内緒にされていてもはっきりわかると思いますよ。うお、スカヨハじゃん(笑)。相変わらずハスキーでセクシーな声だなホントに。ユーモアもあって可愛いとこもあるしで。

 ブラインドデートで相手にキモイといわれ、復縁にほのかな期待を寄せるも妻からキツイ一撃を食らうセオドアも、また中性化した男性像の象徴にも見えます。妻との幸せだった思い出から抜け出せず心に穴の空いたセオドアにしてみれば、高性能のAIに人と同等もしくはそれ以上の関係を求めるのはわかるような気もします。



 それにしても、このAIが万能すぎて、春がきた全開のセオドア。街や駅をサマンサと共に謳歌する様は傍目には危ない人です。それほどサマンサが画期的なAIだということですね。また、セオドアはあろうことか夏の浜辺に長袖&スラックスで現れスマホ片手にサマンサと至福の時を過ごします。これって、かつてのラブプラス片手の熱海旅行を超技術でレベルアップしてますか。でも正直、楽しそう。私もサマンサ欲しいわ。

 繊細でナイーブな空気で充満してますんで、この淡い恋心でどこまで行き付くんだろうなと思っていたら、このセオドアとサマンサは恋愛関係に付き物の行為を普通にやってしまいます。スカヨハ渾身のボイス演技。ここはちょっと意外でした。きっとサマンサが人並みの感情を得たという重要なエピソードだったのでしょう。純粋に人間性を描いただけに過ぎませんが、ファミリー鑑賞は要注意だと思います。

 セオドアを演じるはホアキン・フェニックス。アクの強い風貌してると思ってましたが、こんなんでしたっけ?しかしなかなかの哀愁ぶりであります。そういえばこの人、役者業を引退するっていってた気がするけど。違ったかな。それから、セオドアの別居妻を演じるはルーニー・マーラ。デビッド・フィンチャー監督の『ソーシャルネットワーク』('10)と『ドラゴン・タトゥーの女』('11)に立て続けでヒロインやってましたね。可愛いらしい女優さんです。



 また、セオドアの女友達を演じるのがエイミー・アダムスで、ボサボサの化粧っ気なしで疲れ切ったところは、最近の『アメリカン・ハッスル』('13)でのケバさ(笑)とは実に対象的で、好感が持てました。スッピンを見せてくれる女優さんは正義。全てウエルカムなのです。鼻の形が印象的で好きな女優さんです。

 結局、世界中に同じインターフェースが浸透していることや、OSがネットワークに繋がっていること、そしてサマンサの超越した感情によって、我に返るようなオチに向かっていきますが、一方では救いもあったかと思います。ふと、学習しまくりAIの今後のことを不気味にも感じましたが、考えすぎでしょうか。とにかく頑張れよセオドア。

 サマンサ=スカヨハの実体化じゃじゃーんという期待は力いっぱい外れました。そんな安易な展開になるはずないと片隅にはありましたが、どうしても歯がゆく妄想してしまいますね。スカヨハですからね(笑)。

 ちなみに、吹替版のサマンサ声は、スカヨハが自然体すぎるのに対し、声優さんがやや機械的で固めの口調になっていて、これはこれでいい感じ。オリジナルと聴き比べてみるのも一興でしょう。


 スカヨハ音声の「ラブプラス」を作ってほしい。


(C)2013 UNTITLED RICK HOWARD COMPANY LLC ALL RIGHTS RESERVED.
【出典】『her/世界でひとつの彼女』/ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

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