2008年8月24日日曜日

映画『ガス人間第一号』 ・・・夏の特集企画 東宝特撮「恐怖の変身人間シリーズ」 第3回(最終回)

「恐怖の変身人間シリーズ」も最終回となりました。たった3本ですから(笑)。でもよかった。夏の特集とかいいながら、もうお盆過ぎて一気に涼しくなってるし。

●原題:ガス人間第一号
●ジャンル:犯罪/SF/ドラマ/ロマンス/スリラー
●上映時間:92min
●製作年:1960年
●製作国:日本
●言語:日本語
●カラー:カラー
◆監督:本多猪四郎
◆出演:土屋嘉男、八千草薫、三橋達也、左卜全、田島義文、佐多契子、その他大勢

 東宝特撮「恐怖の変身人間シリーズ」の最終回は、いつでもどこでも自分の意思で身体をガス化させるガス人間です。

【ストーリー】
 日本。銀行強盗が発生し犯人は車で逃走。警察は追跡し車を捕らえるも犯人は取逃がしてしまう。担当の岡本刑事は逃走ルート付近に日本舞踊の春日流家元・藤千代の屋敷を発見し、最近落ち目のはずが羽振りの良い藤千代に不審を抱く。
 やがて第二の銀行強盗が発生するが、毎回犯行後に金庫室を密室状態にする犯人に警察も頭を捻る一方だ。岡本刑事は銀行強盗犯が藤千代のパトロンと確信し、婦人記者の京子の協力を得て藤千代を調査するが、図書館に出かけたりするくらいで犯人と結びつく点がない。
 暫くして第三の銀行強盗が発生し遂に犯人が逮捕される。そして、藤千代も使い込んだ紙幣が銀行から強奪されたものと断定され同じく逮捕される。 しかしその後に、ある男が警察に現れ自分が真犯人だと名乗る。その男はかつて藤千代が通った図書館の受付係・水野であった。
 先に逮捕された犯人は単なる愉快犯で自分こそ本物だと言い切る水野に、警察は実際に銀行の金庫室を使って手口を再現させようとする。金庫室の前に立った水野は不敵に笑い出すと突然、身体をガス化させ数人を窒息死させる。そして、藤千代を釈放するよう言い放ちし、ガス化のまま銀行から逃走する。
 実験の失敗から不運にもガス人間となった水野は、愛する藤千代を舞踊の発表会に立たせたい為に、強奪金を土地の売却金と偽り彼女に提供し続けていたのだ・・・・・・。


拘置所の鉄格子をすり抜けるガス人間の水野(土屋嘉男)。元祖T-1000。ボヤけた顔が不気味。

【感想と雑談】
 東宝特撮の中では最強の人間ドラマではないだろうか。

 度々観てきた作品だけど、今回久しぶりに観直したらとても感動してしまった。こんなに面白かったっけ?自分、歳を取ったってことかなあ(笑;)。
 ほぼ思考を持たない液状生物が強烈すぎた『美女と液体人間』に、復讐男が発明品を使って犯行を繰り返す『電送人間』と、これまで変身人間シリーズを一通り観てきたけども、本作はこの前2作品を合体させて100万倍にパワーアップしたような内容だ。

 人体強化の実験を受けるも予想外にガス人間となった水野(土屋嘉男)が取る行動はヒーロー的なものでも何でもなく、ただ愛する藤千代(八千草薫)の為にひたすら強盗を働き金を貢ぐことだ。愛される女性の藤千代も落ち目となった家元家業を厳格に守ろうとしているが、そんな水野に愛情を感じまた頼りしにしてしまう。人殺しでもある水野と彼の歪んだ愛情を受け入れる藤千代に明るい未来は間違いなくない。悲しい恋の物語である。藤千代を見守る爺や(左ト全)の眼差しがこれまた悲しい。絶対に体長50mの怪獣とか出してはいけないシチュエーションなのである。

 本作の土屋嘉男を見てやたら浮かんだのが竹中直人(笑)。雰囲気が似ているのだこれが。変身人間シリーズ全作品に出演されているが、演じた中でガス人間が一番心に残るキャラクタだ。
 八千草薫は東宝特撮のイメージがないんだけど、藤千代役はまさに彼女の為に用意されたんじゃないかと思えるくらいビターッとはまっていた。在籍されていた宝塚歌劇団の底力ってやつでしょうか。これまでの白川由美とは一味違ったごっつ美人。

 この二人とは対照的にハツラツとした存在が岡本刑事(三橋達也)と夫人記者・京子(佐多契子)だ。事件が起きる度に岡本刑事にまとわり付く京子だが、とにかく二人の会話のテンポがいい。岡本刑事が一言喋れば京子はその3倍は喋り返すという夫人記者らしいトークだが、その昭和の喋り方が楽しくて気持ちがいいのだ。『日本舞踊の家元と銀行ギャング、最高にイカすわぁ♪』などと昭和のセリフがやたらと耳に入る。素敵だ(笑)。この軽快な二人が水野と藤千代の関係を引き立たせ作品を強固なものにしている。
 三橋達也も活発で高めの声の刑事役ははまっているし、佐多契子は八千草薫とはまた違ったタイプで魅力的だ。

 例の大人向けの要素だが、今回は伝統芸能を扱った厳粛な雰囲気でもあるので、風俗的なアイテムは殆ど出てこない。ここは諦めよう(笑)。

 さて、東宝特撮なのでガス人間自体に注目してみると、相変わらずローテクながらも工夫を凝らして変身する様やガス化した様を見せてくれる。圧巻は逮捕され拘束された藤千代を助けにいく場面だ。音も無く拘置所に現れた水野は徐々にガス化し入口の鉄格子をすり抜ける。ここ、速攻で『ターミネーター2』のT-1000を思い出させるので、これ絶対ジェームズ・キャメロン監督見てるよな、と思った。間違いない。たぶん。
 また、このすり抜けた後に水野は近くの看守を襲うのだが、この時に光学合成でガスに滲んだ顔の表情がとても怖い。ゾッとする瞬間だ。
 とにかく様々な手法を凝らしてガス人間を表現した円谷の特撮はホントに素晴らしい。

 劇場を舞台に迎えるクライマックス。二人だけの世界に浸る水野に藤千代と、水野を仕留めようとする警察の緊迫感が並行に描かれ、怒涛のエンディングに向け爆進する。

 本作は脅威のガス人間含め、関係する藤千代に警察、そして新聞記者らの情や行動を丁寧に描いた傑作ドラマなのであります。


前進しまくる夫人記者の京子(佐多契子)に、タジタジの岡本刑事(三橋達也)。お似合いのカップルだ。


京子に突撃取材される家元の藤千代(八千草薫)。その傍らには爺や(左ト全)。ズビズバー・・・とかは残念ながら言わない。


藤千代に会いに来た水野(土屋嘉男)。「ボクには何もいらない、キミに素晴らしい踊りを思う存分発揮してもらえればいいんだ」


藤千代の舞台をたった一人で見守る水野。何故こんな展開になるのかは観てのお楽しみ。

 これで東宝特撮「恐怖の変身人間シリーズ」の特集は終了です。いかがでしたでしょう。古臭いの一言だと思うけど、昭和のSFを題材にした特撮ものは今では味わえない魅力溢れる作品でもあります。色んな観方ができると思うので、ちょっとでも興味があれば一度お試し下さい。温故知新てのもありますよ(笑)。

© 1960 TOHO CO.,LTD.
【出典】『ガス人間第一号』/東宝株式会社

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10 件のコメント:

  1. これはCMを覚えてますよ。かすかな記憶ですが、昔のアナウンサーが原稿棒読みの宣伝。何とも言えない味がありますね。
    でも体長50Mの怪獣が出てこないと、子供の目にはひっかからない、いや、今でもって話も…(笑) 近所にはないので、ディスカスで探してみます。
    応援で~す。

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  2. 待ってました!!
    この映画はシリーズの中で、というより邦画全般の中でも最高水準にある映画だと思ってます。
    芸の鬼と異形の人間、この世に居場所がなくなった男と女。男は一途ながらも誤った形でしか愛を捧げられず、女もおそらくこんな男に頼らざるを得ない自分を嘆きつつもその男の愛を受け止めた?
    昨今のトレンディドラマなどくそ喰らえ!な最高のラブストーリーです。
    もう書きたいことを書き始めたらumetramanさんの本文記事より長くなってしまいそうなのでこの辺で自粛します(笑)
    最後に個人的に好きな場面…ガス人間水野が「金のかかる人だ…」とつぶやくところ。参ったなあ…というニュアンスの中にも愛する女の役に立てている事を喜んでいる雰囲気がタマリマセン!!
    もちろん応援!!

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  3. ガス人間、来ましたね! 電気、ガス、水道(液体)と高度成長期の香りがプンプンします。

    今だったら逆に 'エコ人間'? 光学迷彩とウェアラブルに身を包んだ地球に優しい戦士が、エネルギーの無駄遣いをしている者、二酸化炭素を出しまくってる会社を次々とお仕置きしていく・・

    この企画、こんど東宝に持って行こうと思うんですが。。(´・ω・`)

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  4. この作品も子供の頃観たんですがすっかり忘れてますね。

    観たいな~。再度レンタル屋周って探してみよう。

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  5. >dolitea様
    このシリーズはこの1本だけで十分かもしれません。凝縮されてます(笑)。
    ドラマとしても見応えありますので、ぜひ観てみて下さい。
    特撮ものというのを忘れてしまいますよ(笑)。
    応援どうもです♪

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  6. >快福や様
    あらー、快福や様のハートに火つけてしまったようです(笑)。
    いっそのこと快福や様もレビューやっちゃうとか!?
    あの水野のセリフ。脚本といい、土屋氏の演技といい、ホント素晴らしいですね!。
    リメイクするなら水野役は竹中直人でお願いしたいです(笑)。
    応援どうもです♪

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  7. >kiona様
    電気・ガス・水道!それは気付かなんだ!
    ふと原子人間というのを思い付いたのですが、既にそんな作品がありましたよね(笑;)。
    エコ人間。なんだか健全な響き。ちゃんとキャバレーも入れて下さいよ(笑)。
    これなら東宝間違いないです。

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  8. >dai様
    懐かしいですね。子供の頃はテレビでよく流れてましたね。
    え!こんなにドラマしてたの??と思うくらいの出来栄えですよ。ぜひぜひ~。
    応援どうもです♪

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  9. 変身人間シリーズ好調に続いているみたいですね!
    ガス人間ですか。かなりの評価ですね。
    私も、探してみようかなと。
    変身シリーズは、どこまであるんですか?

    ぽち!

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  10. >とら次郎様
    ガス人間は特撮物なのにドラマが凄いのですよ。暇な時にでもお試し下さいませ。
    変身シリーズは代表的なのが今回の3作になりますね。他にも「透明人間」とか「マタンゴ」もあるのですが、先駆的作品だったり番外的扱いだったりして、外されているようです。
    「マタンゴ」もいずれやってみたいですね(笑)。
    応援どうもです♪

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