2008年8月6日水曜日

映画『過去のない男』 ・・・フィンランドからのちょっといいお話しだそうです

●原題:Mies vailla menneisyytta
●ジャンル:コメディ/ドラマ/ロマンス
●上映時間:97min
●製作年:2002年
●製作国:フィンランド/ドイツ/フランス
●言語:フィンランド語
●カラー:カラー
◆監督:アキ・カウリスマキ
◆出演:マルック・ペルトラ、カティ・オウティネン、ヨハニ・ニユミラ、その他大勢

 以前、ビデオで鑑賞した作品だが、最近レンタル屋でふと目に止まり、猛烈にまた観たくなってしまった。地味ーな人物を配したパッケージデザインだけど、中身の方はというと・・・。

【ストーリー】
 フィンランドはヘルシンキ。夜行列車が到着し一人の男が降り立つ。男は公園で一夜を過ごそうとするがチンピラに襲われ重症を追い、そのショックで記憶を失ってしまう。なんとか辿り着いた港町ではコンテナに住む貧しい夫婦が世話をしてくれるが、名前も名乗れずこの先どうしたものかと悩む男。ある日のこと、救世軍の奉仕を受ける男は、スープを給仕する女性イルマに一目惚れする。それ以来、アタックを続けイルマを射止めることができた男は至福の時を過ごすが、失われた記憶だけはどうにもならない。やがて、男の下に警察が訪れ、新聞で行方を知った男の妻から連絡が入ったことを告げる。どうする男・・・・・・。


救世軍による歌謡ショーの真っ最中に、イルマ(カティ・オウティネン)をデートに誘う男(マルック・ペルトラ)。無愛想なイルマだが、内心は幸せいっぱいだ。

【感想と雑談】
 味わい深いフィンランド映画だ。

 以前、同じくフィンランドの『スターレック 皇帝の侵略』というSFパロディ作品を観たが、本作はそれとは正反対に位置する見事な作品である。(スターレックも面白いよ!笑)

 アキ・カウリスマキといえばしばしば耳にするフィンランドの監督さんである。沢山の作品を撮っていると思うのだが、他では『マッチ工場の少女』を観たくらいだろうか。『マッチ工場~』は、そのパッケージに書かれた解説が妙にコメディっぽかったのでワクワクして観てみたら、不幸という言葉はこの少女の為にあるのではないかという程に不幸で悲惨な作品だった。特に監督のことは意識していなかった。なんだよこれ!と思ってしまったが、何かと尾を引く作品となってしまった。

 その後に監督のことを知るようになり、初めて意識して観たのが本作だ。

 チンピラに襲われ記憶を失った男が古びたいかつい港町で色んな人々と出会うだけの話しだが、なんとも引き付けられるものがある。
最初はザラついた映像にちょっと緊張感が走るけど、男が命からがら辿り着いた港町でコンテナに住む貧しい夫婦に助けられる辺りからジワジワといい雰囲気になってくる。まずはコンテナ夫婦の旦那が仕事から帰ると、幼い2人の子供らはバケツに入れたお湯を簡易シャワーに注ぎ、仕事疲れの父親を癒すのだ。その健気な画がとてもいい(引用①)。

 よそ者でもある記憶を失った男に、やたらと港町の人々が絡んでくる。
よそ者が入り込んだことを知るや駆け付け何かと金をせびる悪徳警官(引用②)。でも男が困っていることを知ると、空き家のコンテナを用意してくれる。家賃はせびるけど。何かとまとわり付くが憎めないヤツだ。
 電気業者は、でかいケーブルドラムを持ってきて、最寄の電柱から電気を引っ張ってくれる。男「礼には何を?」、電気業者「おれが死んだら情けを」(引用③)。
文無しの男はカフェに入ると無料のお湯をもらい、持参した使い古しのティーバッグを入れる。これを見ていた女店員が残り物だと食事を出してくれる。
なんともいかつく見える港町の人々なんだけど、なんだか温かい。

 極めつけが救世軍に勤める独身女性イルマの登場だ。男はスープ皿をもらう時にイルマに一目惚れし、その後に名前を聞き出したり、夜の帰り道のお供をしたりする。初めは無愛想だったイルマも徐々に心を許すようになり、そして女性らしさを取り戻す。デートにも応える。これがいかつい港町を背景にもの静かな男女として描いているのがなんともいえない。ハメは決して外さないのだ。見ていてイルマにはホントに幸せになって欲しいと思う(引用④)。

 クライマックスでは男の正体が判明するものの、それはマイナス要素となってしまう。港町で築き上げたものを失うことになるからだ。男は自宅に戻り、妻の前である決断をする。

 という感じで、非常に地味で飾り気のない作品なのだが、その分どいつもこいつも良い連中ばかりという、温かく味わい深い作品でありました。ラストも大体想像できるでしょう(笑。

 記憶を失った謎の男を演じるのはマルック・ペルトラ。邦画『かもめ食堂』で謎のコーヒー男を演じた人。『かもめ食堂』もフィンランドロケのホノボノ作品でした。
イルマを演じたカティ・オウティネンの特典映像を見たけど、実際はとてもにこやかでチャーミングな女性でありました。

 アキ・カウリスマキ監督作品は、また機会あれば他のも観てみようと思う。『マッチ工場の少女』については、本作以上に地味でいかつい町工場を背景にしてたと思うが、実は観るべきところを間違えたのかもしれない。観直してみたいものだ。

<追記
 後で知ったのだが、『マッチ工場の少女』のスーパー不幸少女もカティ・オウティネンが演じていたとのこと@@。少女がイルマになったのか。


①幼い子供らが注ぐお湯のシャワーで汗を流す父親。チョロチョロとしか出ないシャワーだけど、なんだか気持ちよさそうだ。乗っかってる錆びたタンクには気をつけよう。


②悪徳警官は暫く出張するからと凶暴な飼犬ハンニバルを男に無理矢理預ける。どうだ、ビビッたろ!?と凄むが、普通の大人しくて可愛い犬でした。仲良く就寝。悪徳警官は実は凄いマヌケとみた。


③(無断で)電気を引いてくれた電気業者のオッサン。お礼は何がいい?と聞く男に、「おれが死んだら情けを」と最強の名セリフを吐く。これは男なら死ぬまでに一度は言ってみたいセリフですね。


④コンテナハウスでディナーを共にするイルマと男。二人とも大人です。実にいい感じです。ハンニバルも気を利かせて外に出ていきました。

© SPUTNIK OY 2002
【出典】『過去のない男』/ユーロスペース

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6 件のコメント:

  1. カウリスマキは全部いいですが、これはとくによかったですね。
    フィンランドはいちおう北欧と言うことですが、アジア系の血筋が入っているのだそうです。そのへんスウェーデンやノルウェーとはかなり違う気がします。

    かもめ食堂もよかったな。。
    ちなみにフィンランド語で "さよなら" は "ヘイヘイ" だそうです^ ^ ガツッと応援♪ 別ジャンルで(´・ω・`)

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  2. >kiona様
    全部いってましたか、さすがです。
    今度、気合を入れて探してみようと思います。
    レンタル頼りというのが悲しいですが(笑;
    アジア系が入ってましたか。そう言われると
    そんな顔立ちもおったような。
    北欧、いいですよねぇ。ヘイヘイ頂きました(笑。
    応援どうもです♪

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  3. ほのぼのしてて、おかしくて、昔の邦画みたいです。寿司食べたり、日本の曲流れたり…
    たまに観ますよカウリスマキさん。少し幸せになります。噛まないハンニバルがおかしい。
    応援凸です

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  4. >whitedog様
    日本の曲流れてましたね(笑。
    おっしゃる通り幸せモードです。
    カウリスマキ、人気あるのですね。
    これからちゃんと観ないといけない
    なあ(汗;
    応援どうもです♪

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  5. 興味はあってもカウリスマキさんまで、手が回りません。いろんなものが後回しになってゆきます(笑)応援で~す♪

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  6. >dolitea様
    あらら、それは忙しそうですなあ。
    時間ができてホント何もすることが
    なくなったら、カウリスマキいって
    みて下さい。
    どっぷり鼻あたりまで浸かれますから(笑。
    応援どうもです♪

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