2008年8月17日日曜日

映画『美女と液体人間』 ・・・夏の特集企画 東宝特撮「恐怖の変身人間シリーズ」 第1回

先日に紹介した東宝の『宇宙大怪獣ドゴラ』ですが、嬉しいことにファンの方がいらっしゃったようで(笑)、ここらで一つ大人向け東宝特撮の特集企画を立てることにしました。想像力豊かな昭和に製作された「恐怖の変身人間シリーズ」を順番に紹介していこうと思います。3本しかないけどね(笑)。
 その頃流行った特撮とホラーサスペンスの融合に手に汗握ってみよう!ドン引き決死の覚悟で挑みます(笑)。

●原題:美女と液体人間
●ジャンル:犯罪/SF/スリラー/ホラー
●上映時間:87min
●製作年:1958年
●製作国:日本
●言語:日本語
●カラー:カラー
◆監督:本多猪四郎
◆出演:平田昭彦、白川由美、佐原健二、土屋嘉男、田島義文、小沢栄太郎、その他大勢

 東宝特撮「恐怖の変身人間シリーズ」の第1回目は、シリーズ中最も姿や思考がはっきりしない液体人間です。

【ストーリー】
 日本。ある雨の夜に銀行強盗が発生。バッグを掴み銀行から飛び出した犯人の三崎は車に乗り込もうとするも、突然苦しみだし忽然と消えてしまう。現場に残ったのは衣類に靴、バッグだけであった。
 警察はバッグの中から麻薬を検出し銀行の貸金庫から盗み出されたものと判断。麻薬絡みの事件とし、富永刑事チームは三崎の女である千加子のアパートに向う。しかし尋問するも三崎の行方は知らないようであった。
 その一方、大学助教授の政田は、消えた三崎は水爆実験で被曝した船舶に関係しているのではないかと推測。実はある漂流船に遭遇した漁船船員が、漂流船の中で液状の生物が人間を溶かす様を目撃したらしく、その証言から漂流船から日本に上陸した液状生物が三崎を襲った可能性があると富永刑事に持ちかける。しかし、警察はそんな空想話には耳を傾けない。富永刑事と政田助教授は別々に三崎の件を追うことになる。
 やがて、麻薬組織が関係するキャバレーを突止めた富永刑事は、楽屋で組織のメンバやそこで歌手として歌う千加子が液状の生物に襲われるところに遭遇。かろうじて千加子を救出する。
 遂に液状生物を確認した警察は、それを液体人間と命名し全滅作戦を展開する・・・。


核実験の放射能によって誕生した液体人間。恐怖の不定形生物。

【感想と雑談】
 子供の頃に観た時はかなり怖い映画だった。

 本作は開始早々、いきなり核実験の実際のカラー映像が流れ、そのままオープニングタイトルが始まる。
 製作年からすると終戦からまだ13年しか経っていない。核の恐怖が未だ真新しく根付いている時代で、核の恐ろしさを空想映画上の外敵として描くのは自然なことだったようだ。そういえばゴジラ誕生も同じ背景にあったと思う。('54年、日本のマグロ漁船がビキニ環礁の水爆実験による死の灰を浴びて被曝、というのが一番の影響でしょうか)
 しかし、ここで流れるタイトル曲が何故か激しい行進曲みたいなのは残念。

 東宝特撮といえば、『ゴジラ』を筆頭に『ラドン』や『モスラ』の怪獣映画や、『地球防衛軍』や『宇宙大戦争』の宇宙SF映画等、少年らが胸踊るような作品のイメージなのだが、実は大人向けのSF作品も存在するのだ。大人向けである以上、巨大怪獣や宇宙人を出してはいけない。ここで等身大のまさに人間サイズの外敵が恐怖の象徴として作られたのである。

 それが本作の液体人間。

 大人向け作品であるので、まずは普通の刑事ドラマ的に話しが始まる。冒頭でいきなり何かに襲われるのだが、ここでは姿を一切映さずに、襲われる人間のアクションのみで正体不明の何かを描いている。サスペンスである。

 刑事ドラマで進むので、平田昭彦演じる富永刑事が部下を引き連れ普通の捜査をしまくる。そして、参考人として浮かぶ白川由美演じる千加子だが、これがごっつ美人である。大人の色気というやつ。タイトルの美女に偽りは全くない。
 千加子のアパートに踏み込んだ際、襖の隙間から千加子の着替えを覗こうとしてピシャリと閉められる土屋嘉男演じる刑事が、バツの悪そうにニヤリとするところでは、何か大人のイケない事情を垣間見た感じがして素敵だ(笑。
 この後、千加子はアパートでギャングの訪問に会い脅迫される。
 「ジタバタするんじゃねぇ!もし三崎をサツに渡したら、オメェの命はねぇゾ」
 今ではそうでもなさそうだが、当時は相当破壊力のあるセリフだったはずだ。

 大人向けとして究極の要素がキャバレーでの長尺シーンである。豊満なダンサーらが生バンドの演奏をバックに踊ったりする様は当時としてはかなりムフフであっただろう。肌の露出度が結構高いし。いつの時代にもこの様なスケベ心を満たすサービスが存在していたということ。勉強になります。
 大人向けなので、こういうところを舞台に麻薬組織が暗躍したりするし、刑事らもここに来て張り込みしたりする。
 ここで生バンド演奏の曲調が変わると歌手の千加子が登場し優雅に歌いだす。大人の美人さんで良いのだが、歌の方は外人歌手のレコードをクチパクで合わせているようにしか思えない。ノーリアクションの客も凄いよ(笑;)。

 これら大人向けの世界が構築されたところで、佐原健二演じる大学助教授が理論と実験結果を持って液体人間の存在を前面に出し始める。
 液体人間が初登場するシーンは、今でも部屋を暗くして観ると大ダメージを食らうほどだ。
 核実験の被曝から突然変異を起こした船員を乗せ漂流する船舶。手持ちランプの明りを頼りに船内を探索していると、青緑色の液体がどこからともなく流れてきて人間の形に盛り上る。宇宙細胞ドゴラもそうだったけど不定形で声も上げずに忍び寄るその姿はとても怖い。三崎を偶然襲った液体人間は、三崎を溶かし同化するが、その際に精神活動も引き継ぐらしく、それで元の女である千加子の周りに出現するようになるのだ。
 特撮は非常にローテクで、粘り気のある液体を流し、人間体型は光学合成、襲われ体が溶け出す人間はダミーから空気を抜くような技法を取っている。今時のCGに慣れた目からすると、画的には随分と浮いた存在だけど、当時の目線になって観れば、作り手の観客を驚かそうとする意気込みは伝わるはずだ。

 液体人間はよく考えたら元は同じ人間で核実験の被害者だというのに、その辺は一切触れずに、単に核がもたらした人類への脅威として退治されることになる。当時の空想SFでは画面に映えるキャラクタであれば何でもOKだったのかもしれない。ただ、ラストでは将来を悲観するようなナレーションで締めくくられ、粋な後味を残している。

 非常に古い作品なので、鼻で笑って済まされるのが大半かと思うけど、現代では絶対に出せないカラーや空気があるのは間違いないので、これを魅力に感じることができれば十分に楽しめると思います。

 後の『ウルトラQ』の前身と思って下されば。佐原健二も出てるし(笑)。


液体人間が恐怖を振り撒いてる最中にも、こんな地味ーな取調室で普通に仕事する男達。まさに大人向け。左から富永刑事(平田昭彦)、坂田刑事(田島義文)、田口刑事(土屋嘉男)、宮下刑事(小沢栄太郎)、千加子(白川由美)。


昭和33年の豪華なキャバレーで歌手として働く千加子(白川由美)。美人タイプ。少年には太刀打ちできない色気を発射。この時22歳!


東宝特撮らしいアナログ全開の実験装置。パネルを操作する政田助教授(佐原健二)と美人助手。ここにも美人がいました。ちょっと好みだったり(笑)。


自ら液体人間に突っ込んでいき、あっという間に溶けてしまう坂田刑事。翌日の朝刊では殉職と一面を飾ってしまうのであった。

© 1958 TOHO CO.,LTD.
【出典】『美女と液体人間』/東宝株式会社

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10 件のコメント:

  1. 待ってました!恐怖人間シリーズですかぁ。
    多分、これを含めどれも未見だと思います。
    子供の頃だと放映されていても、
    「怖い!」と目を伏せた類です(笑)
    いまなら観れるな、とわくわくしてきました。
    特撮の手作り感は、もう最高ですね。
    そういうのを観るたびにCGなんぞ
    糞食らえと思ってしまうんですが(笑)
    アナログ万歳! 応援で~す。

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  2. >dolitea様
    やってしまいました人間シリーズ(笑。
    総天然色の東宝スコープによく映える
    手作り感の特撮がもう最高です!
    本シリーズはかなり地味で話しも暗めなので、
    覚悟しておいて下さいね(笑。
    応援どうもです♪

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  3. いやはや、こんなん出されたらかないまへんわ!!
    紫煙くゆる悪所・密談するギャング・半裸の美女・窓ガラスをつたう雨・毒々しいネオン…くう~っ!!
    白川由美(ヒロミ・ゴーの元義理のお母さんでしたよね?)はもちろん、この頃の女優さん達はまさに、今どきのトレンディ女優とは一味違う「映画スター」でした。
    「人間シリーズ」次回ももちろん楽しみにしてますが、こうなったら「血を吸うシリーズ」とか「マタンゴ」とか際限なく期待してしまいますよ!!
    応援です!!

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  4. >快福や様
    妖しい魅力に溢れた映画ですね。
    白川由美さん、この時22歳なんだそうです。
    見えないですよね。ゴージャスでしたね。
    ホントにヒロミ・ゴーめ!!ですよ。
    いつ打ち止めになるのかわからないので、
    あまり期待しないで(笑;。
    応援どうもです♪

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  5. 懐かしいですね。

    私も子供の頃観て、とても怖かったのを憶えています。
    今観たら大笑いなんだろうな。

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  6. >dai様
    怖かったですよ~これは。子供には
    ちょっときつかったかなと(笑;。
    大人になってからは、古き昭和の
    様子や言葉使いを懐かしむといった
    ところかな。ギャングの脅し文句は
    笑えますね(笑。
    応援どうもです♪

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  7. オープニングシーンは2通りあるのでしょうか? 記憶では椰子の木が核実験の爆風に吹きまくられるシーンがあったのですが、最近見たらこれがなかったので。

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  8. >匿名様
    コメントありがとうございます!
    オープニングに椰子の木ですか?
    本レビュー用に観た作品には無かったですね。たしか。既に記憶が怪しいですが(笑;)。
    どこかの時点で差し替えられたのかもしれませんね。不思議ですね。
    Youtubeで当時の予告編を観たのですが、本編に無かった(と思うのですが)液体人間のカットが拝めました。関係あるのでしょうか。

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  9. 当時小学校三四年生だった私が映画の看板を観て初めて興奮したのが、この「美女と液体人間」でした。そのポスターは、ビキニ姿の美女が忍び寄る液体人間に怯える様子を描いたものでしたが、最高にセクシーで色気が有りました。私の住んでいた尼崎には、かなりの実力を持った映画向けのカンバン絵師が居て、その方達の作品だったかも知れません。

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  10. 〉匿名様
    いい時代でしたね。私の幼少の頃はスチール写真とかで構成された看板ポスターしかお目にかかれませんでしたが、それでもあの独特なトーンとデザインには震えたものです。
    どちらかというと、トラウマに近い思いが当時の看板ポスターにはありました。匿名様が楽しまれたセクシー看板がとても気になります。絵師というのも十分な地位をお持ちだったのでしょうね。
    当時の娯楽の主流であった映画は至るところに掲示されていた看板ポスターと相まっての大衆文化であったと思っています。
    近年と比べて作品に対する期待や尊重というのがケタ違いでしたよね。時々、当時に思いを馳せたりします(笑)。
    ちょうどこのコメントを書いてる最中、東宝SFの「宇宙大戦争」や「フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラ」の伊福部昭マーチを聴いていますが、とても気分がいいです。

    コメントありがとうございました♪

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