●ジャンル:ドラマ/ロマンス
●上映時間:94min
●製作年:2001年
●製作国:イラン
●言語:ダリー語/ペルシャ語
●カラー:カラー
◆監督:マジッド・マジディ
◆出演:ホセイン・アベディニ、モハマド・アミル・ナジ、ザーラ・バーラミ、アバス・ラヒミ、ゴラム・アリ・バクシ、その他大勢
ここのところ、しょーもない作品続きでしたが、今回はちょっといい感じだと思います。珍しく中東アジアの作品ですが、普段のアホアホ記事を浄化してくれるでしょうか(笑;)。
【ストーリー】
イランの工事現場。住み込みで給仕係として働いていた青年ラティフは、最近やってきたアフガニスタン難民の少年ラーマトに仕事を奪われ面白くなかった。更にラーマトは調理の腕がバツグンで現場に大人気というのが腹立たしい。ラティフはラーマトにプチ嫌がらせをする。ある日のこと、どこからか優しい鼻歌が聞こえてくるので、気になったラティフが辿ってみるとそこは給湯室。そっと覗いてみれば、そこには長い髪をとく少女の姿が。なんとラーマトであった。彼女は少年を装っていたのだ。ラティフは衝撃を覚えるもその日を境にラーマトを守ってやりたい思いが日に日に強まっていく。やがて当局に追われ現場から離れてしまうラーマトに、ラティフはいてもたってもいられなくなり・・・。
【感想と雑談】
レンタル屋でふと目に止まった1本。監督が『運動靴と赤い金魚』のマジッド・マジディというのを知り「あ・・・」と思いました。『運動靴と赤い金魚』はだいぶ前にテレビの深夜帯で録画したものの、観る前にビデオテープが行方不明になってしまった(笑;)苦い経験があるんです。今回は珍しくイランの作品ですが、そういう経緯や何かビビビとくるものがあったので、ひとつ観ることにしました。
世界情勢上イランは何かと耳にしている国でしたが、映画製作については殆ど予備知識がなく、いったいどんな作品なんだろうと思ってました。いやはや、これはやられました。別にアクションとかSFとか、そんな楽しければいい要素はこれっぽっちもないんですよ。イスラム圏内もあって馴染みのない空気に満たされていますが、根底にあるのは純粋な人間愛。愛といってもラブストーリーとかカタカナ表記で済ませるようなチョロイものではありません。舞台はアフガニスタン難民を不法と知りながらも雇い入れるイランの工事現場。金銭や異性のことで頭いっぱいの青年ラティフは、懸命に働く難民少女にショックを受け、「何とか救ってやりたい。でもどうすればいいのか」という人生初の悩みを抱えることになります。
何百万人もの難民が必死になって生活している現実そのものを背景としているので、そう易々と万事解決な展開にはなりません。ひょんなことからバラン(ラーマトは偽名)を一人の少女として意識付いてしまい、複雑な思いでいっぱいになるラティフは、とにかく職場でのトラブルから彼女を守ろうとします。彼女に罵声を浴びせる作業員にラティフは食ってかかり、作業員が積み上げたレンガをキックで破壊したりします。もっとやれと思ってしまいます。が、ラティフは決して彼女の正体をバラすようなことはしません。バラせば彼女の境遇に悪影響を与えること必至だからです。かといって直接、彼女に何かをできる訳ではない。悶々としながらも彼女を見守り続けるラティフですが、気が付けばそれまでの浮つきがなくなって落ち着きが見え始めます。
工事現場を離れたバランを難民コミュニティーで見つけても、ラティフは直接手助けもできずただ遠くから見守るだけ。極寒の中、川の激流から石を運ぶ過酷な仕事はバランだけでなく多くの難民女性らが担っています。青春真っ盛りのラティフとしては、彼女に淡い恋心を抱いたりもしたでしょうが、それを告白して何になるという残酷な現実が取り巻いています。
ここでトドメの一撃を食らったラティフは、遂にある行動に移ります。それは自らの生活環境をも犠牲にする一大決心。イスラム教には困った者を救済する「喜捨(ザカート)」という教義があるそうです。そこまでやるんかと思ったりしますが、救済のレベルは別にしてこういう行為は人間として大事なことではあります。
こう書くとなんだか観ていて辛くなるだけのようですが、実は淡々としながらもどこか優しい空気に包まれた作品であります。青年ラティフを演じるホセイン・アベニティが若かりし頃のフレディ・マーキュリーを思わせるという個人的楽しみもありました(笑)。しかし、あちらの男性陣は顔つきが濃いですな。女性陣はというと・・・バランくらいしか出てこないのですが、彼女を演じるザーラ・バーラミはハッとするくらいに可憐な少女。東アジア系に近い顔立ちです。
また、その他で注目なのが現場監督のメマール。強面でいつも怒鳴り散らしていますが、ラティフの父親代わりにもなっていて、実はとても情に厚い監督さんです。イラン人を恥じるほどに難民のことを考えているし、バランの件を隠しながら相談事をぶつけてくるラティフには親身になって応えたりします。演じるモハマド・アミル・ナジはもの凄く濃い顔立ちなんですが(笑;)、とても味のある役者さんです。
イラン映画ということで、手法としてはどうか?なんですが、これが意外やストーリーと双璧を成す程の出来。とてもしっかり撮られています。感心したのが、バランが少年ラーマトとして初登場するシーン。仲間と一緒に工事現場の建物を1階から3階まで上る様を1カットで収めています。建物は工事中の中途半端な状態なので、クレーン備え付けのカメラが吹き抜けから丸見えの各階を連続して捉えていきます。
この長回しの中、多くの作業員らが働いているのですが、これが我々日本人からするととても違和感のあるシーンにもなってます。それは安全衛生。なんと各階と吹き抜けの間には何もない状態なのに作業員は誰一人命綱を装備していないのです。踏み外せば即転落の環境。実はバランがやってきたのも、元々働いていた父親が転落事故によって負傷したからなんですが、これが本当にイランの作業環境であるとすれば大変なこと。国の考え方もあるでしょうが、とにかく安全第一でいって欲しいと願うしかありません。
ラストで遂に向かい合う二人。ここでバランが取る行動がちょっと意外でした。しかし、ラティフの思いなど知る由もなかったろうし、知ったとしてもそれが彼女の精一杯の愛情表現だったのかもしれません。この後の、ブルカ(イスラム女性が被るフード)越しに見つめるバランの瞳と、ラティフの満足げな微笑みが、実に印象的でした。マジッド・マジディ監督のメッセージにある「世界が戦争ではなく、愛によって支配される日を夢みよう」。無責任に声を上げて言うつもりはありませんが、思いやりの心だけは忘れないようにしたいです。
ここまで読んで頂いて興味を覚えられた方には、ぜひ観て欲しいと思います。とてもいい作品だと思います。
【出典】『少女の髪どめ』/日本ヘラルド映画