●ジャンル:ドラマ/ロマンス
●上映時間:188min
●製作年:1945年
●製作国:フランス
●言語:フランス語
●カラー:モノクロ
◆監督:マルセル・カルネ
◆出演:アルレッティ、ジャン=ルイ・バロー、ピエール・ブラッスール、マルセル・エラン、ルイ・サルー、マリア・カザレス、その他大勢
昨年初めにショップの名作コーナーで目に入り購入した作品。で、マトモに観たのがつい最近。1年半近く封印状態。せっかく購入したのだし、有名な作品でもあるので、ちゃんと観ないとダメですね。それにしても、パッケージの(¥500)マークは頂けないと思う(笑)。
【ストーリー】
19世紀中ごろのパリ。犯罪大通りと呼ばれる活気溢れる通りに建つ劇場。そこのパントマイム役者のバチストは偶然、スリの現場を目撃し、容疑をかけられた女性ガランスを助ける。とても美しいガランスに一目惚れするバチスト。しかし、ガランスには他にも寄り付こうとする男らがいた。一発当てようとパリに上京してきた役者フレデリックに、代書屋が表家業の悪党ラスネールだ。ガランスには多くの男を惹きつける魅力があった。 あるきかっけで劇場に雇われたガランスは、観客の一人モントレー伯爵に見初められプロポーズを受けるも断ってしまう。世間に嫌気がさしているのか、ガランスはバチストの純粋な心だけを受け入れる。
やがて、ラスネールが企てた悪事に巻き込まれてしまったガランスは、うっかりモントレー伯爵に助けを求めパリを去ることになる。 その後、同じ劇団の娘ナタリーと結婚し家庭を築くバチストだったが、一時もガランスのことを忘れることはなかった。そして5年経ったある日のこと、パリに突然ガランスが戻ってくる。どうするバチスト・・・。
劇場の前でガランスの冤罪を自慢のパントマイムで証明するバチスト(ジャン=ルイ・バロー)
【感想と雑談】
大変古いモノクロの大河ドラマである。
フランス映画史に燦然と輝く金字塔で、巨匠マルセル・カルネ監督が3年もの歳月を費やした映画芸術の極みなのだそうだ。たしかに普通の作品とは違った気迫を感じた。
それにしても、製作当時のフランスはナチスの占領下にあったはずなのだが、戦時中によくこれだけの作品を撮ることができたものだ。
冒頭の犯罪大通りでは活気溢れる様子が描かれるが、ここでのヒロイン・ガランスの登場シーンにちょっと注目。昔は娯楽の一部として見世物小屋があった訳だが、なんとガランスがそこの「全裸の美女」として登場するのだ。入口の呼び込みが客をかき集め、客がワクワク気分で中に入っていくと、風呂桶のお湯にドップリ浸かったガランスがお出迎えする。そのガランスは、どういう仕掛けなのかグルグル回転している。しかも手鏡を持ちながら。客はというと、目が点状態で回転ガランスを眺めているだけだ。この脱力感。たしかに全裸に違いない。しかしお湯で全然見えないのだ。客の気持ちがよくわかる。これは風俗なのか。今これをやったら斬新すぎるかもしれない。(そうか)
仕事が済んだガランスが大通りを歩いていると、上京してきた役者フレデリックがナンパしてくる。モゴモゴしたフランス語でやりとりする様は、いかにもフランス映画だが、日本では絶対に有り得ない独特のリズムがあって面白いと思う。また、軽くあしらわれたフレデリックが、あっさり別の女性に同じ手口でナンパし直すのも笑える。見習いたいところだ。
この後にガランスが立ち寄る代書屋には悪党のラスネールがいるのだが、コイツがまたニヒルでクールさをアピールするような男だ。そんなラスネールにガランスは「一人芝居を見ているようで楽しいわ」とのたまう。いいぞガランス(笑)。
パントマイム役者のバチストが、ガランスの冤罪を証明するシーンが素晴らしい。ガランスの横に立つ紳士がスリに会う様を見ていたバチストが、その一部始終をパントマイムで演じきるのだ。それもガランス、被害者、犯人の3人分だ。言葉も発せずに動きや表情だけであそこまで表現できるパントマイムって凄いと思う。ここで、スリを見かけたら現行犯逮捕しろよ、というツッコミはぐっと我慢なのである。この後も劇場で彼のパントマイムが度々見られる訳だが、この時の即興パントマイムが一番だった。
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タイトルにある天井桟敷とは、劇場の天井近くの階層にある格安席のこと。観劇に娯楽を求める庶民でごったがえしている。落っこちそうなくらい乗り出してるし、ケンカでも起きれば大惨事間違いない状況だったりと、庶民らがとても熱い。舞台で役者がヘマすれば突っ込んで笑ったりと、品は無いけど一体感があったりして、なんだかこんな観劇も楽しそうだ。
本作は、そんな劇場を中心に様々なタイプのキャラクタが登場し、交差しながら夫々ドラマが描かれていくが、軸に進むのはバチストとガランスの恋愛だ。このガランスは至って冷静な女性なのであるが、どうも彼女に関係する男性らはバチストも含めあまり良い思いができないようだ。ガランスは劇中では美女ということになっているが、正直そうは見えないし歳も結構いってる感じだ。でもこれは、他とは違う内面から出る美を表現したのかもしれないし、世間を知り尽くした特異な存在として強調したのかもしれない。そんなガランスに男どもは見透かされ翻弄されてるような気がする。自分なら劇団の娘ナタリーで決めると思うのだが、そうはいかない世界のようです(笑)。
かなり古いし3時間もの長丁場ときているので、軽い気持ちで観ると大変かもしれない。フランス映画を勉強する上では重要な作品だと思うので、できれば気合を入れてから挑んだ方がいいと思う。
『ロード・オブ・ザ・リング』や『タイタニック』みたいな娯楽性はないものの、何度か観直すうちに何ともいえない味わいを感じるようにもなってきた。これが金字塔といわれる所以でしょうか。
ガランス(アルレッティ)をナンパする、パリに上京したばかりの役者フレデリック(ピエール・ブラッスール)。これがフランス流ナンパの仕方か。
代書屋が表向き家業の悪党ラスネール(マルセル・エラン)。子分にしっかり愛されてるクールな男。前髪がチャームポイント。
ガランスのことで頭が一杯のバチスト。手前にいるバチストに恋焦がれる娘ナタリーがちょっと可哀想。
いい仲になるバチストにガランスですが、この後には波乱万丈の展開が待っているのです。
© CINEMA LIFE LTD.
【出典】『天井桟敷の人々』/株式会社コスミック出版
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