2013年5月25日土曜日

映画『デビルズ・バックボーン』 ・・・スペインの内戦時代、とある孤児院で大変なことが起きます

●原題:El Espinazo del Diablo
●ジャンル:ドラマ/ホラー
●上映時間:106min
●製作年:2001年
●製作国:スペイン
●言語:スペイン語
●カラー:カラー
◆監督:ギレルモ・デル・トロ
◆出演:エドゥアルド・ノリエガ、マリサ・パレデス、フェデリコ・ルッピ、フェルナンド・ティエルブ、イレーネ・ビセド、その他大勢

 すっかり暖かくなりました。といいますか暑いくらいでしょうか。もうそんな季節なんだということで、今回久々の映画記事はホラー作品を挙げることにします。

【ストーリー】
 ’30年代スペインの内戦時代。荒野に建つとある孤児院に連れてこられた少年カルロスは、他の孤児らとなんとか打ち解けようと懸命になる。リーダー気取りの少年ハイメはカルロスに冷たく当たるが、どこか後ろめたさを隠しきれずにいた。一方、孤児院の女院長カルメンに老教師カザレス、そして使用人ハシントの大人組は、内戦の余波がやがて押し寄せることに思いをはせる毎日を送っていた。そんな大人組のことなどお構いなしに、孤児院を満喫するカルロスだが、ある夜のこと謎の少年を目撃したことで、彼の生活は一変してしまう・・・。



【感想と雑談】
 『ヘルボーイ』シリーズでお馴染み、ギレルモ・デル・トロ監督の古め(初期頃)の作品になります。前々から気になっていたものの、手を伸ばさずにいたのですが、先日やっとこさ観てみることに。

 なんだこの情緒溢れる出来栄えは。もっと早く観ておくんだった。

 スペイン内戦の時代。舞台は荒涼とした土地のど真ん中に建つ孤児院。昼間は太陽の光が照り付けていて、明るく牧歌的な雰囲気を醸しています。これ本当にホラーなのか?しかし、孤児院に到着するなり少年カルロスがある物を目にすることで、いきなり不穏な空気が漂うことになります。

 それは孤児院の中庭に突き刺さった不発弾。デカいです。この爆弾の意味するところは何?思い出したのが、海外ゲームの『Fallout3』。これにも不発弾(しかも核爆弾)が突き刺さったままの町が出てくるのですが・・・まあ、関係ないんだろうな。とにかく不発弾の存在感に掴みはOK。



 建屋に入れば当然、薄暗くもなるし嫌な空気も流れます。そんな中、カルロスがやたら遭遇することになる謎の少年霊。遠くからはぼやっとした姿で、近づいてみれば青白い顔に割れた額から流れ出る血。その血は垂れるのではなく空中に舞う感じ。カルロスが手で触れると煙のように消え、指先には血がベッタリ残ります。そんな少年霊は誰かを襲うでもなく、ただカルロスに何かを訴え続けるようです。

 一方、何かに悩み何かを企んでいる孤児院の大人連中がまたいい味を出しています。老教師カザレスは女院長カルメンに気があるも紳士な態度を崩さないが裏では変な酒を飲んでいる。カルメンは使用人ハシントから禁断の関係を迫られている。ハシントは内戦のどさくさに紛れて孤児院に隠されるお宝を狙っている。そんな交差する人間関係が単なるホラーだけで収まらない深みを与えています。

 カザレスが飲む酒というのが奇形児のアルコール漬け。背骨が飛び出したその様はまさに悪魔の背骨。本作のタイトルでもありますね。紳士なおっさんがこんなのをケロッと飲むものだから、それまでの印象とのギャップに少々混乱してしまいます。因みに飲む時、効能の暗示として、人差し指を80度くらいにおっ立てますが、それを見せられたカルロスがどう思ったのか、気になるところです。



 やがてカルロスは、少年ハイメの告白と、少年霊との交信から、過去に起きた事件の真相を知ることになります。それは使用人ハシントが絡む事件でした。カルロスとハイメは手を組み、内戦の余波から孤児院が混乱しだす中、ハシントに戦いを挑むことになりますが・・・。

 ギレルモ監督はメキシコ人ですが、その歴史からしてスペインを題材にするのも当然なのでしょうね。もともと特撮畑のお方でホラー系ファンタジー作品を撮り続けておられますが、その総合的な演出力はそこらのドラマ作品よりも、かなりハイレベルなものと思います。

 少年霊の表現には、影の多い空間に佇むだけの姿を見せることで想像力を掻き立てる恐ろしさがあって、ハリウッド的アホなホラーよりも、日本的ホラーに近いものを感じます。その上、少年や大人らの行動や心情、戦争の残酷さも丁寧に描かれていて、ホラーと日常風景が重厚なドラマとして成立しているところが大変素晴らしいです。



 DVDパッケージ裏の解説では力一杯に気持ち悪さを強調していて、これはこれで観る人は観るんだろうけど、もうちょっと間口広げたアピールをした方がよかったんじゃないかな。損してますよこれでは。勿体ない。因みにDVD特典のメイキング映像から、本作のキーワードが”琥珀色”であることがわかりました。鈍い自分は本編だけでは気付けなかったです(笑)。

 同監督による『パンズ・ラビリンス』('06)も、スペイン内戦に翻弄される少女の夢物語でしたが、これも実に素晴らしかった。戦争とファンタジーを両立させるのってスペイン血統の芸当なんでしょうかね。それともギレルモ監督の稀にみる才能なんでしょうか。

 最新作の『パシフィック・リム』('13)は巨大怪獣と巨大ロボの戦闘を描いてるそうですが、これもギレルモ監督ならではの出来となりそうですね。映像は文句なしに保証されてるんで、とにかく監督の丁寧な演出と人間ドラマを期待したいです。


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【出典】『デビルズ・バックボーン』/角川書店

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